通勤中の災害補償「おりる?」or「おりない?」

1:通勤中の負傷も労災がおりるのですか?

 通勤中の災害も、労災保険による保険給付が受けられます。これは、負傷のみでなく、疾病や、 障害や、死亡に対しても保険給付が受けられます。


2:給付額はどのぐらいになりますか?

 治療費用は200円の自己負担の他は全額支給され、療養中に労働できなくなった場合、 欠勤4日目以降の賃金の60%が支給されます。 さらに程度がひどい場合は年金給付や一時金等が支給されます。

 治療費のみで比べてみても、健康保険が3割自己負担しなければならないのに対し、とても手厚い保護といえます。たとえば治療費の総額が100万円だった場合、 健康保険の場合は自己負担額が30万円に対し、労災保険の場合は200円となります。はっきり言ってこの差は大きいです。


3:支給の前に、認定があります

 ここからメインの話になりますが、通勤災害であると認められないと労災保険からは給付されません。 通勤中でない、つまりプライベートであると判断された場合は自己負担の多い健康保険を使うしかありません。

 途中で寄り道をした場合、その後の災害は自己責任となり、労災保険はおりません。のちほど事例を出します。


4:労災保険で言うところの『通勤』とは

 @住居と就業の場所との間の往復
 A厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
 B上記@に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動

 上記@〜Bのことを『通勤』と呼んでいます。Aは兼業している人、Bは持ち家があるのに単身赴任している人等に関係します。

 加えて、条件があります。すなわち、合理的』な経路および方法であることが求められます。

---所得税法の通勤と、労災保険法の通勤---
 所得税法での考え方では、『合理的』かつ『経済的』です。 しかし、労災保険の場合は、通勤費の高い経路を使っていたとしても、そこに合理性があれば認められます。 極端な話、通勤にヘリコプターをチャーターしても、それに合理性があればOKなのです。


5:合理的な経路および方法とは

 人間の生理上難しいですが、“途中で寄り道をせず、社会通念上妥当な経路や方法で往復すること”です。

 前述したとおり、所得税法とは違いますので、例えば通勤申請した経路や手法以外の交通手段を使ったりした場合も、 そこに合理的な理由があればOKですし、合理的な理由がなければNGです。


6:経路の逸脱・中断

 通勤と関係ない目的で経路を反れることを『逸脱』といい、通勤とは関係のない行為をすることを『中断』といいます。 例えば、遠回りになるが夜景が綺麗だからといって湾岸道路を走っている時は逸脱、途中でゲームセンターに寄って遊ぶことを中断と言います。 これら逸脱・中断が行われた場合は、行われたときはおろかその後の移動における災害は通勤災害として認められません。 なお、ささいな行為は逸脱・中断にはなりません。

<逸脱・中断とならない“ささいな行為”の例>
・経路の近くの公衆便所を使用する場合
・経路上または通勤に利用する駅構内でタバコ、雑誌等を購入したり、ジュースを立ち飲みする場合
・経路上で大道芸を見たり、大道の手相見に寄る場合・・・“通りすがりの娯楽”はセーフです。

<その他逸脱・中断とならない例>
・燃料補給のためにガソリンスタンドに寄る場合・・・燃料補給は通勤に必要な手段とされます。
・託児所に子供を引き取りに行く場合・・・託児所に寄る場合は、合理的な経路として認められています。

 しかし、例外があります。逸脱・中断が『日常生活上に必要な行為』である場合、逸脱・中断の移動における災害は通勤災害として認められます。 ただし、この認定は結構厳しいです。

<日常生活上必要な逸脱・中断の例>
・スーパーに寄って惣菜等を購入する場合
・クリーニング店に立ち寄る場合
・美容院もしくは理髪店に行く場合
・職業訓練を受けるために公共の職業開発施設や大学・高校等に行く場合
・選挙権の行使や直接請求権の行使の場合
・病院や治療院(整体・針灸等を含む)に行く場合


7:ケーススタディー

 では、具体的にどのようなケースで通勤災害が認められ、どのようなケースで通勤災害が認められないのか
特殊な場合は判断が付きにくいと思います。ケーススタディー方式で検証してみましょう。

@通勤経路上の飲食店で食事をした後の事故
・・・これは通勤災害ではありません。こういうケースが一番多いかもしれませんが、 通勤経路上の店であろうが、食事してしまったら中断行為となります。なお、短時間で一杯のビールのみならOKとのことです。

A帰りに会社の飲み会があった後の事故
・・・これは通勤災害ではありません。こういうケースもありがちですが、 忘年会が会社主催だろうが、飲み会の後の帰り道は通勤とはみなされません。ここのところは厳しいです。

B独身労働者が帰宅前に社内の食堂で飲食した後の事故
・・・これは通勤災害です。独身労働者でかつ社内の食堂に限って飲食が認められます。

C渋滞を避けて遠回りをした時の事故
・・・これは通勤災害です。渋滞を避ける行為は『合理的』とみなされます。

D普段電車通勤だが、健康の為に自転車で帰ったときの事故(中断・逸脱はなし)
・・・これは通勤災害です。中断・逸脱がない場合、それが通勤申請した方法でなくとも『合理的』とみなされます。

E出張先から戻る経路上の事故(中断・逸脱はなし)
・・・これは通勤災害でもプライベートでもなく、業務災害です。労災保険上は、出張先との往復は業務扱いになります。 ただし、労基法では業務扱いになりません(運搬等の業務性の強いものは除く)。

F出張帰りに、業務とは関係ない場所に遊びに行った時の事故
・・・これは通勤災害ではありません。出張後は遊びに行きたいですが、自己責任となります。

G営業等で客先から自宅に直帰する途中の事故
・・・これは通勤災害です。出張とは扱いが別です。

H帰宅経路上で大道芸を見ていたときに車がぶつかってきたときのケガ
・・・これは通勤災害です。前述の通り、経路上の大道芸見物は逸脱行為にはなりません。

I帰宅途中に寄った理髪店内で転倒したときのケガ
・・・これは通勤災害ではありません。理髪店から出た後の災害は通勤災害ですが、理髪店の中での災害は中断中の災害となり、プライベート災害となります。

J会社の門から就業部署へ向かう途中に転倒したときのケガ
・・・これは業務災害となります。通勤災害は、家の門を出てから、会社の門に入るまで(あるいはその逆) となり、家の敷地内や業務時間外かつ会社の敷地内での災害はプライベート災害となります。 ただし、会社の門をくぐって就業部署に向かう途中の歩行や移動による災害は特別に業務災害となります。

K通勤のさい、自宅アパートの共有階段で滑って転んだときのケガ
・・・これは通勤災害です。アパートの場合、共有スペースは既に通勤経路とみなされます。

L会社の送迎バスに乗っているときに、バス内の通路で滑ってケガした場合
・・・会社の送迎バス内は、通勤目的だろうが業務時間外だろうが業務災害となります。

M無免許運転で事故した場合(中断・逸脱はなし)
・・・これは通勤災害ではありません。無免許運転は『非合理的』な通勤方法とみなされます。

N免許証不携帯で事故した場合(中断・逸脱はなし)
・・・これは通勤災害です。ただし、『支給制限』といって、本人負担額が増える場合があります。

O引ったくりや暴漢に襲われた場合のケガ(中断・逸脱はなし)
・・・これは通勤災害です。通勤に通常伴う危険が具体化したととらえられます。

P同棲中の恋人の家から出社する場合の事故
・・・これはケースバイケースです。実質的な居住場所かどうかで判断されます。 自宅を引き払っている場合は認められますし、恋人の家が就業の拠点とはなりえない場所にある場合は認められません。

Q友人宅で麻雀をし、翌朝友人宅から会社に向かう時の事故
・・・これは通勤災害ではありません。友人宅は『本拠の住居』ではないので通勤になりません。 ただし、自宅を引き払って友人宅に居候している場合は別です。

R入院中の配偶者の病院から出社する場合の事故
・・・これは通勤災害です。看病で寝泊りする場合は『本拠の住居』とみなされます。